大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所一宮支部 昭和62年(モ)107号 決定 1989年9月12日

破産者(免責申立人)

右申立代理人弁護士

河合良房

主文

一  免責申立書添付の債権者目録番号2、28、34、36、49乃至51について破産者の免責を許可しない。

二  その余について破産者を免責する。

理由

一  本件記録及び破産者審尋の結果によれば、破産者はa合成株式会社(商号変更前は、a合成工業株式会社)を設立し、当時から倒産時まで引続き、代表取締役となつていたこと、右会社は売上げが延びなやみ、借入金等の金利負担の増大により資金繰りに窮し、昭和六一年六月手形の支払を停止して破産宣告を受けるに至つたこと、破産者は、右会社の借入金、手形、リース代等について連帯保証し、自己所有の土地、建物を担保に入れていたが、それらの債務総額は倒産時約二二億一千万円余に達していたこと、そのため昭和六一年七月八日自己破産申立、同年八月一五日午前一〇時破産宣告となつたことが認められる。

二  そこで破産者に破産法第三六六条ノ九に定める免責不許可事由があるかどうか検討する。

破産者について同条第三号乃至第五号の事由が存しないことは、一件記録上明らかである。

問題となるのは、破産者が前記会社の代表取締役として、重複(多重)リースにより不正にリース金を取得したかどうか、の事実の存否であり、右が不許可事由の同条第一号、第二号(就中、第二号)に該当するかどうか、の問題である。

三  一件記録及び破産者、異議申立人ら各審尋の結果によれば、右会社は資金繰りに窮し、昭和五五年頃から利用していたリースを悪用して、その頃から以後引続き、多年に亘り、機械、金型の更新等に当り重複(多重)リースを行ない、b精工株式会社(代表取締役社長は破産者の実弟A)を中間に介在させて、これらリース取引によつて生じた融資金を運転資金等として利用していたこと、これらのいわゆる重複リースはa合成会社の専務取締役であつた右Aが主として行なつたものであるが、同社代表取締役社長であつた破産者も、これに逐一関与したものではないとはいえ、その概要を知りながら、それを止めるよう指示した事跡は全く窺われないことが認められる。

四  右の事実によれば、右会社のなしたいわゆる重複リースは、詐欺による会社財産並びに債権者に対する重大な侵害に当ることは明らかであり、免責不許可事由(破産法第三六六条ノ九第一号、第二号)たる事実に該当するものである。

五  ところで破産者は右会社の代表取締役であつて、その所為が会社の機関としてなしたものである場合、会社の行為としての効果を生ずるものではあるが、会社そのものではないから、主として連帯保証債務を以て破産債権とする本件にあつては、会社のなした右該当事実を以てこれを直ちに破産者の行為と同一のものとすることはできない。破産者について会社の所為と同視することができる場合においてのみ、免責が許されずその責任を問い得るものである。

六  このような見地から前記事実をみると、重複リースの取引については、破産者は商法第二六六条の三による取締役の責任を負うべきものであることは明らかである。(破産者は、前記取引について、そのすべてをAがなしたものであつて、破産者は全くこれらを知らなかつたと主張し、その旨の供述も存するが、当裁判所がそれを採用しないこと前示のとおりであるけれども、仮にそのいうとおりとしても、極めて重大な過失の存することは明らかであり、商法第二六六条の三による責任については同様となる。)

従つて重複リース及びこれに関連する契約についてなした破産者の所為は、その重大性、悪質性に照し、破産者の免責は許されないものといわなければならない。

七  しかし、これらとは関係のない破産者の保証債務等については、申立人の不誠実性を表わすものでなく、これらを前項と同視して免責を許さないとすることは酷に失するものである。これらについては免責を認めることが相当である。破産者について、通例は免責を認めるか、これを許さないか、のいずれかの決定がなされるものであるが、それは一定の事実、事由の存在が即ち破産者の不誠実性を表わすものであるとして、同一の結論を導かれるものであるが、破産者の不誠実性が明白となつた部分が存する場合において、本件の如く、明らかに不誠実には関しない部分があるときは、そのすべてを一律に免責不許可とすることは酷であつて不当である。これらについては免責を認めることがむしろ法の精神に副うものと考えられる。

八  以上に基づき、免責を認めるべき範囲について検討する。一件記録及び前掲各審尋の結果を綜合すれば、免責申立書添付の債権者目録番号2、28、34、36、49乃至51の各債権を除くその余の債権については、借入金その他についての保証債務として、破産者の不誠実性に関しない(詐欺的所為等を窺わせる事実を認めるに足る証拠はない)ものもしくは諸般の事情により免責を認めることが相当なもの(リース契約であつても、前記詐欺にかかわるかどうか必ずしも明らかでないもの、もしくは金額等に照し情状酌量すべきもの)として、免責許可の対象となるものと認められる。(なお、異議申立人三京化成株式会社のいう、破産者が保証に当り詐術を用いた旨の事実を窺わせる資料は存しないので、採用しない。)

九  よつて前項の各番号の債権については免責を許可しないものとし、その余については免責を認めることとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 寺本嘉弘)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例